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東京高等裁判所 昭和50年(ツ)74号 判決 1976年11月10日

上告人

山上玄松

外一名

右両名訴訟代理人

小野塚政一

外一名

被上告人

山岡静雄

右訴訟代理人

三枝三重子

主文

原判決中上告人両名に関する部分を破棄する。

本件を浦和地方裁判所に差し戻す。

理由

一本件上告理由は、別紙記載のとおりである。

二上告理由第一点および第二点について。

原判決が、「特定の契約関係を証するために作成される契約書の所有権は、その契約関係の当事者に帰属するものであつて、当事者の一方がその契約にもとづき他方に対して有する権利を第三者に譲渡したからといつて、別段の意思表示のない限り、これによつて当然に契約書の所有権が第三者に移転するとは解されない」との見解を示したうえ、「被上告人は、朝比奈藤太郎に原判示和解契約(この和解契約を証するために作成された書面の原本三通中の一通が原判決別紙目録記載の書面の原本一通、以下本件証書という。)にもとづく蕨町に対する土地所有権移転請求権を譲り渡したというにすぎず、同町に対する同請求権譲受対価の支払義務も同人に承継させることによつて和解契約における当事者としての地位を右同人に移転したとの主張立証がないし、被上告人が本件証書を同人に譲り渡す旨の別段の意思表示をしたと認めるに足りる証拠もなく、また、加えて右朝比奈から石川喜一郎へ、右石川から上告人ら各自へと順次右和解契約にもとづく土地所有権移転請求権が譲り渡されたとの上告人ら主張の事実を認めるに足りる証拠もない」旨を判示して上告人らの本件証書の所有権を取得した旨の抗弁を排斥していることは、所論のとおりである。

しかしながら、原判決の確定した事実によれば、「本件証書は被上告人と蕨町との間に締結された原判示和解契約を証する書面として作成された(そして、被上告人がその代理人弁護士を介して同証書を入手し当初においてその所有権を取得した)ものであつて、右の和解契約条項がその記載内容となつている」というのであるから、本件証書は、右の和解契約にもとづく債権関係が表示されているものであつて、その債権関係を離れては独立の存在意義を有せず、したがつて、本件証書の所有権は、特段の事情のない限り、同和解契約にもとづく債権の取得者に帰属するものと解するのが相当である。

ところで、原判示和解契約の内容によれば、同和解契約は、原判示のような事情から成立したものであつて、これによつて被上告人が蕨町に対し原判示土地所有権移転請求権を取得するものとされている点がその本体をなすものであり、そうだとすれば、本件証書の所有権は、当初は前示のような事情のもとに被上告人の所有に帰属していたものの、その後被上告人が右の土地所有権移転請求権を他に譲渡した場合には(これにともない同請求権取得の対価支払義務まで譲受人において承継したか否かはともかくとして)、被上告人においてとくにその所有権を留保するか、同請求権の移転が法令上禁止され、蕨町との関係では被上告人だけしか同請求権を行使できない、というような特別の事情のない限り、右土地所有権移転請求権の譲渡にともなつて移転するものと解するのが相当である。けだし少くとも譲受人との関係では被上告人は右所有権移転請求権を自ら行使しない義務を負うものであり、他方において譲受人が右権利を行使するためには、右権利を証明する文書として右契約証書の所持を必要とするからである。

してみれば、被上告人が昭和三六年六月ころ朝比奈藤太郎に自己の債務の弁済に代えて右和解契約にもとづく土地所有権移転請求権を譲り渡したことは原審が当事者間に争いのない事実としてこれまた確定したところであるから、以上によれば、本件証書の所有権は、前記特別の事情の主張のない本件においては右土地所有権移転請求権の譲渡にともなつて前記朝比奈に移転したものと解すべき余地が十分あるものといわなければならない。

そうすると、原判決が前示のような見解のもとに本件証書の所有権が被上告人より右朝比奈に移転しないものと認定判断したのは、結局本件証書の所有権移転に関する法律判断を誤つた結果によるものといわざるをえず、そして、この誤りは原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかといわなければならない。

さらに、記録によれば、「前記朝比奈から石川喜一郎へ、同石川から上告人両名へと順次右和解契約にもとづく土地所有権移転請求権が譲り渡された」旨の上告人ら主張の事実については、これに符合する当事者の提出、援用にかかる甲第七号証、乙第一号証、丙第一号証、第一審における証人石川喜一郎の証言、被告佐藤忠郎本人の供述および原審における証人朝比奈藤太郎の証言、被控訴人佐藤忠郎本人の供述等が存在するのに、原判決がこれらの証拠を排斥する合理的な理由を説示することもなく、ただたんに前示のように「右主張事実を認めるに足りる証拠はない」と判示しただけで、右主張事実を採用しなかつたのは、結局この点において理由不備のそしりを免れない。

所論は、要するに、以上の諸点を上告理由とするものと解されるので、論旨はいずれにしても結局理由があることに帰し、原判決中上告人らに関する部分は破棄を免れない。そして、本件については更に原審において審理判断の要があるから、本件を原裁判所へ差戻すこととし、民事訴訟法第四〇七条により、主文のとおり判決する。

(岡松行雄 唐松寛 木村輝武)

上告理由<省略>

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